2018年12月24日

光と風を

『一瞬の宇宙』
KAGAYA
河出書房新社

 光と風を感じる一冊に出会った。

 私がKAGAYAの名前を知ったのは、今から約十年前。

プラネタリウムの全天周映画で『銀河鉄道の夜』を観たときである。

私のイメージしていた宮沢賢治ワールドは、陰翳のある美しさの奥に、どうにもならない悲しみと不気味さを宿す海霧のような世界だが、KAGAYAの解釈はまるでちがっていた。
星々のあかるさ、白鳥の肢体の明度の高さ、夜空の透明感が際立ち、最新のCG技術を使い、無機質な美しさを立体的に引き出しているのだ。

驚いた。

ほんとうに驚かされた。

これがあの銀河鉄道なのかと。
人物は登場しないにも関わらず、何てあざやかで大胆で、それでいて幻想的なのか。

カンパネルラにあこがれながらも、いまいち素直になれないジョバンニのもどかしさや、イタチに自分の身体をくれてやらなかったことを悔やむ蠍の話をする少女の息づかいが今にも伝わってきそう。

風景だけで、かの名作を表現するなんて。

世の中には才能がある奴がいるものだなあと、ちょっぴり空恐ろしい気持ちになった。

以来、書店で彼の本を見つけてはこつこつと揃えているものの、本書は、作者の横顔が見え隠れするふしぎな一冊である。

ウユニ塩湖で水鏡にうつる星空を撮影する際のエピソードや、東京スカイツリーの上にのぼるスーパームーンを写したときの苦労話。

さらには南極大陸で皆既日食を目の当たりにしたことなど、文字を目で追いかけているだけでも、何だか身体感覚が研ぎ澄まされてくるような、鋭さとスケールの大きさに心拍数が高まっていく。
その快感は、あの日プラネタリウムで味わったものと同等。いやそれ以上かもしれない。

 たった一枚のベストショットを撮るためには、何か月も前から、ときには何年もかけて調べあげ、準備しなけれなばらない。人間離れした作品の創作の秘訣は、九割の事前調査と、一割の偶然によるものなのだ。逆説的な言い方だが、ハプニングを味方につけるためには、緻密な準備が必要なのだ。


 

ラベル:フォト 幻想的
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2018年11月16日

本当? 歳を取るのも悪くない!?

『歳を取るのも悪くない』
解剖学者   養老孟司
エッセイスト 小島慶子
中公新書ラクレ

年齢を重ねることを美化する本は嫌いだ.
しかし、もっと嫌なのは、年を取ることをことさら否定して、必要以上に若さにしがみつくという考え方である。

本書は、そのどちらでもない。
中立の立場をたもっている。

年齢を重ねるノウハウ本のなかでは、これは、けっこうめずらしい立ち位置なのだ。

解剖学者の養老孟司は、昆虫大好き人間としても知られている。
独特の価値観と、のんびりしているけれども言っていることは鋭いという語り口は、固定ファンが多い。

自称・人嫌いだというが、本物の人嫌いである私からすると、養老さんは、虫好きであっても、人嫌いではないのだが。

さて、この対談本は、年を重ねることで人生がおもしろくなると言っているのではない。
若い頃と同じ考え方ではないぶんだけ、年齢が上がるにつれて見えてくる世界が広がることもあるよと、といているのである。

だが、結論から言うと、仕事のストレスから解放される方法はないし、日本の将来も期待できない。
モデルスタイルがない時代だが、ひょうひょうとして生きるには、悟りをひらく必要があるのかもしれない。

養老さんに言わせると、仕事は、山を作るのではなく、穴を埋めることであるという。
つまり、誰にでもわかる目立つことばかりだけに注目するのではなく、むしろ、ほとんど他人に気がつかれないような小さなささやかなものを積み上げていく。
その根気良さと着眼点が大切なのだろう。
悩んだら、むつかしいほうへすすめというのは、わからなくもないが。

ちなみに、対談相手の小島慶子は、ちょっと偽善者チックで、物事を片方からしか見ていない感じがして、あまり好きにはなれなかった。

posted by アビシニアン at 06:00| Comment(0) | 対談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月15日

悩むより、まず、風になって考えてみる!

『風のぼうけん』
文/曹文軒
恵/アレクサンダル・ゾロティビッチ
訳/いわやきくこ
樹立社

この絵本の主人公は、【風】である。

北から南へと吹き始めた風は、自分自身が人間にあたえる影響力の大きさにびっくり!
枯れ草を飛ばしたり、自転車をなぎ倒したり、男の子が上げようとしていた凧を高くあげたり、女の子の帽子をとばしたり、もう調子に乗りっぱなし!

というほど、楽しく気持ちよく吹き続ける。が、焚火をしていた火のまわりを吹き抜けて、麦畑が大火事になった。
その大火事騒動の大きさを反省して、今度はあまり行動しないように自粛していたのだが、風車をまわさないといけないし、そんなにおとなしくしているばかりでもダメだと気がつく。

そして、最後に男の子が本を読んでいた、その本のページをめくると、何とタイトルは『風のぼうけん』だった!

と、この絵本は、風が主人公になっている、風の視点で見た人間と自然を描いている、いっぷう視点の変わった1冊である。

べつに目新しいことはないし、とくにこれというひねりはない。
そんなオーソドックスさが、かえって大人の眼から見ると新鮮におもえる。

風は、本来、正義でも悪でもない。
しかし、ここに登場する風は、人間が喜べば自分もうれしいし、人々が困ったり悲しんでいれば、いっしょに落ち込むという、感情移入が得意なキャラクターなのだ。

挿絵は、セレビア出身のビジュアルアーテイスト・アレクサンダル・ゾロビッチが手がけている。
3Dを連想させる奥行のある画面と、アジア圏以外の人が想像する、ちょっぴりレトロな中国の衣装や風景が融合して、独特の世界観を醸し出している。

作者が中国の児童文学の第一人者である以上、中国風の画面構成にすることはアリだとおもうが、風のダイナミックさや、風通しよさを表現するために、広大な中国大陸を舞台に設定するのは、よくマッチする手法だろう。


ちょっぴり疲れた夜は、風になったつもりで、悩むよりも、走ったり、歩いたり、眠ってしまおう!






ラベル:絵本 児童文学
posted by アビシニアン at 01:00| Comment(0) | アラカルト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする